水素

「やっぱり物質は人間が豊かに暮らすためのものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「炭素」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この物質の原子量が好きだから。
断腸の思いで削りに削ってそれでも1.0g/mol、っていう原子量が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「軽さ」ということへの諦めきれなさがいかにも物質的だなあと思えてしまうから。
水素の原子量を俺自身は冗長とは思わないし、もう削れないだろうとは思うけれど、一方でこれが炭素や酸素だったらきっちり12.0g/molとか16.0g/molにしてしまうだろうとも思う。
なのに、各所に頭下げて迷惑かけて1.0g/molになってしまう、というあたり、どうしても「自分を形作っているプロトンが捨てられない物質」としては、たとえ水素がそういう物質でなかったとしても、親近感を禁じ得ない。水素自体の宇宙での量の多さと合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。